経口第3世代 セファロスポリン(3GCs)は、生体内利用率が低く、乱用により薬剤耐性菌の出現リスクがあるため使用は推奨されていません。しかしながら、標準的かつ効果的な使用量の削減方法は未だ確立されていません。我々は、がんセンターにおける経口3GCsの使用削減を目的として、3段階の介入の有効性を検討しました。
2017年4月1日~2022年3月31日の60ヶ月間、単施設の中断時系列解析を実施し、患者の経口3GCsの使用を減らすための3段階の介入の有効性を評価しました。それぞれの介入期間は次の通りです:Phase 1(介入前)、Phase 2(クリニカルパスの見直し)、Phase3(感染症内科へのコンサルテーションサービスと抗菌薬適正使用支援プログラムの導入)、Phase4(経口抗菌薬の教育講演と処方時の警告表示)。主要評価項目は、3GCsのDOT(Days of therapy)としました。副次評価項目は、介入が適切に行われたかどうかの指標として狭域抗菌薬のセファレキシン、アモキシシリン、アモキシシリン・クラブラン酸、スルファメトキサゾール・トリメトプリムのDOT、3GCsから単純に置き換わりが置きていないかどうかを確認するために広域抗菌薬のキノロン系抗菌薬、マクロライド系抗菌薬のDOTとしました。また、薬剤耐性菌による院内感染症の発生率、3GCsおよび経口抗菌薬のコスト、院内死亡率、在院日数も評価しました。
3GCsは、Phase3、Phase4では大きな変化は見られませんでしたが、初回の介入で、DOTの傾向(coefficients: -0.08; 95% confidence interval [CI]: -0.15 to -0.01, p < 0.05)および水準(coefficients: -0.5; 95% CI: -0.93 to 0.03, p < 0.05)が有意に低下しました。狭域抗菌薬については、Phase4でセファレキシンのDOTの水準と(coefficients: 0.42; 95% CI: 0.03 to 0.81, p=0.04)、スルファメトキサゾール・トリメトプリムのDOTの傾向(coefficients: 0.26; coefficient: 0.38; 95% CI: 0.07 to 0.70, p=0.02)が増加し、アモキシシリンとアモキシシリン・クラブラン酸のDOTの傾向はPhase 3で増加しました(coefficients: 0.26; 95% CI: 0.07 to 0.45, p=0.01)。3GCsの実費(Phase 1 to 2: p < 0.001; Phase 2 to 3: p < 0.01, Phase 3 to 4: p < 0.001)および調整後購入費は(Phase 1 to 2: p < 0.001; Phase 2 to 3: p < 0.01, Phase 3 to 4: p < 0.01)、全試験期間において有意に減少し、経口抗菌薬の実費はPhase2で減少し(p < 0.01)、Phase3(p < 0.01)、Phase4(p=0.01)で増加しました。薬剤耐性菌感染症、在院日数、死亡率には有意な低下は観察されませんでした。
本研究は、がん患者における経口3GCsの削減効果を報告した初めての報告です。我々は、がんセンターにおいてクリニカルパスの見直し、感染症内科へのコンサルテーションサービスと抗菌薬適正使用支援プログラムの導入、経口抗菌薬の教育講演と処方時の警告表示を行いました。がん患者における抗菌薬の使用量は、一般集団と比較して多いですが、このような抗菌薬使用量が多い集団においても、患者の転帰を悪化さたり、代替の広域抗菌薬の単純な使用量増加をきたすことなく、経口3GCsの使用削減に寄与し、経口抗菌薬の総コストを減少させることに成功しました。このように、抗菌薬使用量が多い施設であっても、効率的かつ容易に3GCの使用を削減することが可能であることが示されました。
Itoh N, Kawabata T, Akazawa N, Kawamura D, Murakami H, Ishibana Y, Kodama EN, Ohmagari N. Reduction strategies for inpatient oral third-generation cephalosporins at a cancer center: An interrupted time-series analysis. PLoS One. 2023 Feb 9;18(2):e0281518.